サスペンス

【殺人の追憶】テンポ、テーマ、ユーモアどれもが素晴らしい傑作【感想】

出典:映画.com

韓国を代表する映画監督「ポン・ジュノ」の名を世に大きく知らしめたのが、今回勧める作品『殺人の追憶』です。

2019年公開の最新作『パラサイト 半地下の家族』が韓国映画で初めてカンヌ最高賞を受賞するなど世界的に大きな評価を受ける映画監督が、一体どんな作品を作っているのか

まだ彼の作品を見たことのない人はぜひ見てほしいですね。

文句なしに面白いです。

最後まで目をそらせない怒涛の展開、魅力的な人物たちが描くシリアスなテーマ、そんな中でも時折のぞくユーモア――。

非常に巧みでありながら人の心を打つ、すきの少ない総合点の高い映画でした。

面白いポイント

  • ハラハラする展開
  • 人物が魅力的
  • テーマが深くて考えさせられる
  • 事件捜査のリアルを知られる
  • ユーモアがあり笑える

こんな人にお勧め

  • 最後まで退屈しない映画を見たい人
  • 「真実とは何か、悪とは何か」を考えたい人
  • くすりと笑いたい人
  • 世界的に評価されている監督の映画を見たい人

前半までのあらすじ

(動画は予告編です)

1986年、韓国のある農村地帯の用水路で手足を縛られた若い女性の死体が発見される。地元の刑事であるパク(ソン・ガンホ)が捜査に当たるものの進展せず、その2ヵ月後に同じ手口の事件が発生。

パクは恋人の話から知的障害を持つ焼き肉屋の息子クァンホを犯人と決めつけ、部下とともにクァンホを拷問、自白を強要するが、ソウルから応援に駆けつけたソ刑事(キム・サンギョン)が鋭く指摘する。

「クァンホの麻痺した手では犯行は不可能」。さらに、ソ刑事の推理によって3人の目の死体が見つかる。

「事件は足で解決するものだ」と熱く語るパクに対し、「書類は嘘をつかない」と冷めた表情で応えるソ。

相反する2人の刑事がそれぞれの手法で捜査を進める中、狂気的な殺人事件がまたも起きてしまう――。

『殺人の追憶』は、韓国で10人の女性が殺された「華城(ファソン)連続殺人事件」(1986~1991)をモチーフにしていますが、原作はこの事件を扱った戯曲であり、あくまでもフィクションであるそうです。

最後まで目をそらせない展開

いくらテーマ性が深くておかしみのある映画だとしても、退屈だったら魅力は大きく落ちませんか?

『殺人の追憶』は、まず退屈しません

前半までのあらすじだけでも展開の激しいことがわかると思いますが、後半も同様に変化が大きく、ラストまで突っ走ります

犯人は捕まるのか。どんな人物なのか。

クァンホをはじめ要所で疑いのある人物が出てきて、見る人はその都度「こいつか!?」と好奇心をそそられる。

深い作品でありながらも、大衆が楽しめる作りになっているんですね。

やっぱりすごい、ソン・ガンホの存在感

出典:Kstyle

ソン・ガンホ(上写真)は素晴らしい俳優です。

ぼくは昨年の2018年から韓国映画をよく見るようになったんですが、ソン・ガンホが出ている映画は概ね面白い印象。

この人がいるだけで、映画が映画じゃなくなるんですよね。

“そこらへんにいるおっちゃん”の感がすごくあって、見る人が映画にすっと入っていける、映画という虚構の中にリアルや日常を感じさせる不思議な吸引力があるんです。シリアスな演技もうまい。

『殺人の追憶』でも彼の演技が光っています。

パクは、冷静に見れば悪い奴です。

恋人の話だけでクァンホを犯人と決めつけ、部下が拷問するのを許容し、さらにはクァンホの靴を現場近くの地面に押しつけて証拠を捏造する。

部下と共にクァンホを山の中に連れて行き、クァンホにスコップで穴を掘らせる。そして、「これはお前を埋めるための穴だ」と脅す。

文章にするとひどい奴ですよね。

ただ、単純に悪い奴とも言い切れなくて…。

筋がわかりすぎてしまうので具体的には書きませんが、情味のある一面や、方向性には疑問が持たれるものの仕事バカな部分があって、冗談も飛ばすし、なんだか憎めない奴。

時代や職業がその人をつくってしまうことってあると思うんですが、おそらくパクも韓国の当時の時代や田舎の風土、刑事という職業によってつくられたキャラクターなのかなと思えるんですよね。

悪質な捜査もソン・ガンホがコミカルに演技すればどこか普通に見えてくるから不思議で、それと同時に、「悪が普通に見える」という怖さにぞっとします

「こんなひどいことも当時は普通に行われていたのかもしれないなあ」と映画の状況をすんなりと受け入れてしまっている自分に気づくのです。

ぼくたちが思う「悪」というのは、今の時代の「普通」と照らしたときにネガティブに異常があるかどうかで判断されるんじゃないか。つまり「悪」は決して普遍的なものではなく、そのときどきで表情を変えるものなんじゃないか。

悪とは何か。

そんなことを考えせられます。

真実をつかむこと、誰が悪人か判断することの難しさ

「悪い人間を判断すること、真実をつかむことの難しさ」がこの映画のテーマの一つだとぼくは思います。

冒頭ですごく印象的なシーンがあります。

「こいつらの面を見てるとある瞬間、ピンとくるんだ」

パクがメシを食いながら疑いのある人間の写真をはったノートを見ていて、ドヤ顔で上司に話す場面。

するとその上司は、強姦事件の犯人と被害者の兄が横並びで書類に記載している署内の一隅を指し、「どっちが犯人かわかるか?」と尋ねます。

その2人の顔が、本当にどこにでもいるような普通の顔なんです。一見して2人のうち1人が悪人とはわからない。

捜査中に浮かび上がる疑いのある人物たちも同じように、悪人かどうなのかが容易にはわからない。怪しそうにも見えるし、むしろ善人にも見える。

真実をつかむことの難しさがよく表現されていて、これはぼくたちの現実世界でも共通することでしょう。『殺人の追憶』には、真に迫る深いテーマが内包されているのです。

そして、終盤にかけての展開も見事。

女性が次々と殺されていき、捜査が混迷を深めると、当初は冷静だったソ刑事も次第に追い詰められていきます。

遂には発狂してある人物を殴り、まるでパク刑事のような言葉を発します。

「お前が殺したと言え」

そして頭を抱えたソはパクにこう言うのです。

おれはもうわからない

息もつかせぬ怒涛の展開、深いテーマ性、折々にのぞく俳優たちのコミカルな演技とユーモア。

『殺人の追憶』は、映画の魅力がたくさん詰まった傑作です。